地域の問題をアートで表現。「森のはこ舟アートプロジェクト」進行中!
今、日本各地でアートプロジェクトが大きな盛り上がりを見せていることは皆さんご存知でしょうか?近いところでは新潟県の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」などが有名で、開催ごとに日本各地から多くのアートファンが詰めかけ話題となっているんです。
実はここ福島でも、現在さまざまなアートプロジェクトが進行中。中でも今回ご紹介したいのは会津地方で展開している『森のはこ舟アートプロジェクト』。昨年から始まったこのプロジェクトは、過疎や活性化など地域が抱えるさまざまな問題にアーティストが関わり、綿密なリサーチを経て作品を作り上げるという画期的な試みが話題となっています。
精霊になりきる?12名のアーティストによる自由な試み
森のはこ舟アートプロジェクトが始まったのは2014年。喜多方市、西会津町、三島町の3市町に合計12名のアーティストが入ることとなりました。プログラムの内容も展示方法もすべて自由。
アーティストたちは各エリアのコーディネーターや活動をバックアップする有志のワーキンググループとともに、町をくまなく歩き、時には集落のお年寄りに話を聞きながら「森」をテーマにした作品作りにイチから取り組んだのです。
森のはこ舟アートプロジェクト2014:takasato
たとえば、喜多方市で行われた「高郷プロジェクト」では、アーティストの稲垣立男さんが高郷地区(旧高郷村)にある温泉施設「ふれあいランド高郷」で、温泉を訪れた地域の人々に“夢”についてインタビュー。市井の人々が密かに胸に抱く夢をダンボール仕立ての展示スペースに貼りだし、即席博物館を作り上げました。
森のはこ舟アートプロジェクト2014:kusaki
西会津町では、華道家の片桐功敦さん主導のもと、「草木をまとって山のかみさま」というワークショップを実施。町内の野山で採取した草花を身につけ、古くから信仰の対象となってきた西会津町の山々に住まう精霊たちになりきるというイベントには、子供から大人までたくさんの方が参加しました。
森のはこ舟アートプロジェクト2014:tochi
そして三島町では、作り手の高齢化により失われつつある郷土食「トチ餅」に注目。EAT & ART TAROさんが、できあがるまでの20以上の工程を実際に体験し、紙芝居にして後世に残すプロジェクトに携わりました。
アーティストが自分のやりたいことをやるのではなく、地域の人々と語り合い、その中で生まれた想いや課題を作品にする。アーティストたちの自己満足で終わるのではなく、さまざまなかたちで地域に還元していくという試みは、少しづつですが受け入れられ始めているのです。
過疎化が進む山村にアートが再び活力(=若者たち)を取り戻す
そんな森のはこ舟アートプロジェクト。2015年度の始まりに際して、先日開催されたフォーラムでは、各エリアの活動報告に加えて、本プロジェクトの実行委員長も務める福島県立博物館館長・赤坂憲雄氏のトークセッションが行われました。
森のはこ舟アートプロジェクト2014
活動報告では、それぞれの町のワーキンググループとして活動した4名が登壇。ほとんどがアートプロジェクトに携わるのは初めてだったこともあり、それぞれの試行錯誤や経験を交えた報告がなされました。
山深い会津のさらに奥では、「現代アート」などと説明しても、住人の皆さんは「?」になるばかり。
そこでどのようにコミュニケーションをし、思いを伝え、協力していただくか。知られざるプロジェクトの裏側に、集まった観客の方々も熱心にメモを取りながら聴き入っていました。
森のはこ舟アートプロジェクト2014
続く、赤坂氏と各エリア登壇者によるトークセッションでは、森のはこ舟アートプロジェクトの意義を見つめ直す機会に。
「アーティストって変人ばかりですよね。しかも、アートなんて説明しても全然わけがわからない(笑)。でも、わからないから人を繋ぐことができるんです。地域に異端者が入って、停滞していた空気をかき混ぜることで、新たな一体感を生み出すことができると感じています」と語る赤坂氏。
加えて、“アート初心者”ばかりが集まって展開した1年間を振り返って、「アートプロジェクトは人を育てる場になる」という力強いお言葉も。若者たちが街へ出ていき、過疎化が進む山村に、アートが再び活力(=若者たち)を取り戻す、そんな未来が、もしかしたら森のはこ舟の行き着く先なのかもしれません。
アートと地域。2015年の新たな展開
森のはこ舟アートプロジェクト2014
会津地方は会津若松市周辺を除けば、そのほとんどが山林です。過疎の危機に直面している集落も少なくありません。でも、そこでは今なお伝統を大切にした昔ながらの暮らしが続けられ、森や山からの恵みであふれています。なのに、住んでいる方々は意外とその豊かさに気づかない。
自分の暮らす場所を「何もない」「つまらない」と思ってしまっているのです。森のはこ舟アートプロジェクトでは、そんな当たり前すぎて見えてこない地域の持つ、地域の方々も知らない魅力をもっともっと発見して伝えていこうというプロジェクトでもあります。
先日のフォーラムの最後、質疑応答の時間にひとりのおじいさんが、さっと手を挙げて一言。
「おかげで地域が元気になりました。ありがとうございます!」
森のはこ舟アートプロジェクト2014
その言葉は、森のはこ舟メンバーにとって何よりのプレゼントとなりました。そんな風に活動を楽しみにしてくれる、アートを受け入れてくれる方々が少しでも増えれば、私たちは本当にうれしいのです。
今年度は、昨年から続投の3市町に加え、猪苗代町と北塩原村も参加。西会津町と三島町が共同で行うプロジェクトなど、新たな展開が見えつつあります(詳細は7月頃ごろ発表!)。決して派手さはないけれど、じっと目を凝らせば作品以上に人々の想いが森や山々の底力が感じられるはず。アートと地域の織りなすドラマチックな関係にぜひご注目下さい!
Text by Akiko Watanabe(森のはこ舟アートプロジェクト)